自ら鬼を斬った鬼丸国綱

刀はさまざまな伝承を持っていることが多いですが、鬼丸国綱(おにまるくにつな)もそのうちの一振りです。謡曲の「鉢の木」でよく知られている執権北条時頼は、変装して諸国を巡回・視察を行い、多くの民を救ったと言われています。

さまざまな伝承で知られる北条時頼でしたが、夜に眠るときには怯えていました。眠れないのではなく、眠ることが怖かったのです。北条時頼は、夜に少しまどろんだくらいになると必ず小鬼が現れたと伝えています。一尺程度の小鬼が現れて、悪戯をすると言うのです。

不気味に感じて、毎晩眠ることもできずに、疲労はたまり慢性的な睡眠不足の状態になってしまいました。修験者を招いて、加持祈祷を頼るほどにまでなったそうです。さまざまな修法を試しましたが効果は現れず、時間だけが過ぎていきました。そしてある晩のこと、いつものようにまどろんでいると、毎夜現れていた小鬼ではなく白髪の老爺が目の前に現れました。

「自分は粟田口国綱の化身である」と説明した上で、「小鬼を退治しようと思ったが、不浄の者に触れられたために錆びてしまって鞘から抜け出せない」と言ったそうです。目覚めた時頼は、すぐに家臣に精進沐浴をさせ、国綱の刀身を丁寧に拭って清めさせました。その夜、突然すごい音がしたかと思うと、手入れをしたばかりの粟田口国綱の刀身が倒れて、火鉢を真っ二つにしていました。その火鉢には、時頼を毎晩悩ませていた、小鬼そっくりの顔が彫金されていたのです。その日より、時頼は悪夢を見なくなりました。

それからこの刀を「鬼丸」と命名して、守護刀としたそうです。これは髭切という名を持っている、別名を鬼切とする鬼を斬った刀と混同されがちですが、別の刀であるので注意が必要です。